〜 フランダースのシロ 〜
わたしさ、しにたい。
子供たちいるから、しなないけど。
踏み込んだ瞬間から一年以上も、不倫バカップルにたった1人で立ち向かって、だいぶ疲れた。
フランダースの犬のラストのネロの気持ちが今ならよくわかる。
大好きな場所で暖かい何かとぐっすり眠ってしまいたい。
つかれたな。
タカユキは、今回のことで拠り所を失った。
自分を見失ったというか。
あなたに対して、わたしに対して、子供たちに対して、社会に対して、みーんなに嘘をついてたから。
全然別のタカユキが同時にたくさん並行して存在してたの、2年も。
あなたと付き合い始めるまでのタカユキ、あなたに相性がいいと思われたくてあらゆることに迎合したタカユキ、あなたにスポイルされた傍若無人なタカユキ、いきなり全部バレたタカユキ。
で、今は、タカユキの意識も記憶も、常に混濁している。
冗談を言いながら楽しげに過ごしているかと思えば、なにかのきっかけでいきなりわけの分からない大爆発を起こす。
その数分後にはソファーに丸くなって、生きてる意味などないと言う。
かまって欲しくてやってる感じとは違う。
アウトオブコントロール。
小さなフラグメンツのタカユキがそこら中を漂っていて、フロントにランダムに出現する。
その小さな一つ一つは、すべて別人格。
中濃ソース以外はソースじゃない。
やっぱソースはウスターでしょ。
眠いと話し中でもすぐ寝てしまう。
なかなか寝付けず眠りが浅い。
竹の耳かきじゃないと優しさを感じない。
ピンセットじゃないと取れてる気がしない。
隠し事ができない。
平気で嘘をつく。
タカユキ自身もめちゃくちゃな自分に気がついていて、でもどうにもできない。
子供たちもそんなタカユキに怯えているけれど隠してる。
パパ、パパって。
高速のミキサーでどんどん砕けていくタカユキ。
一粒がこれ以上ないくらい小さくなったら、液体みたいにまたひとつに混ざるといいけど。
わたしはそれを支える。
すごく疲れてるけど、平気な顔で。
そしてふと、しにたくなる。
しなないけど。